1990年代の山中峯太郎関連文献

「少年少女の昭和史第8回」 秋山正美、「花も嵐も」1990年2月号 79ページに「万国の王城」「黒星博士」の挿し絵、「輝く日本魂」の書影が掲載され、86-7ページには峯太郎について語っている。「山中峯太郎は、子供のための小説と同じぐらい多くの成人向き小説を書いているが、彼が生涯失うことのなかったある種の無邪気さ、純真さは、やはり、子供の世界にだけ受け入れられる作品を生みだす方向につながっていたように思われる」、また「もし現代のテレビの「遠山の金さん」にひき続き、山中峯太郎の”血わき肉おどる”冒険ドラマが登場したとしても、子供たちの側に格別の違和感はないのではないか」と秋山は冷静に分析している。
「日本の小説 全情報 27/90、下た-わ」 日外アソシエーツ株式会社編、紀伊国屋書店、1991年 峯太郎の著書が2431-2432ページに、2432ページには山中ミユキ夫人も「円満御家庭」の共著者として掲載されている。
 『近代作家エピソード辞典」  村松定孝、東京堂出版、1991年  195ページに「山中峯太郎」の立項あり。筆者が峯太郎と戦後に会ったとき、「それは、どうも責任重大ですな。実はあれを書いた当時、しばしば参謀本部から呼出しがありました。軍の秘密兵器の設計図が、もれたのではないかとの誤解でしたが、戦争中は執筆禁止です」(p197)とある。
「朝日新聞社史 大正・昭和戦前編」 朝日新聞百年史編修委員会、1991年、 p62-65 「山中特派員、じつは革命軍参謀長」「淡路丸沈没偽電事件」「「鉄箒」と「青鉛筆」はじまる」に峯太郎の言及があるが、自伝以上の情報はない。もっとも二番目のについて峯太郎の文章が引用されているが、これはかつての朝日新聞社史への寄稿か?
 「少年の理想主義について」  佐藤忠男 「少年小説の世界」所収、二上洋一編、沖積舎、1991年  初出は「思想の科学」昭和34年3月号。それまでのプロレタリア文学一辺倒だった児童文学研究に、「少年倶楽部」など実際に広く読まれた児童文学を無視してはいけないと一石を投じた論文。この中で峯太郎は質問にこたえている。
また樺島勝一の「敵中」の挿し絵一枚が収録されている。
 「近代戦争文学事典第一輯」  矢野貫一編、和泉書院、1992年  「敵中横断三百里」(昭和六年版、41ページ)、「同」(昭和四五年復刻版272ページ)、「同」(昭和五十年少年倶楽部文庫版、275ページ)をそれぞれ粗筋とともに客観的に解説紹介している。最後のものについては「漢字表記を平仮名表記になおした部分が多いが、緊迫した場面に平仮名が列なるのは、間が抜けてもどかしい」また初版本と比較して、「語句や改行にも異なりが認められる。雑誌掲載の本文を底本としたためであろう。「主人をしたう愛馬の長駆」の章の初め三行は、単行本に見られない。この部分は前章末尾の要約反復であり、雑誌連載のために必要とした文章であったと思われる」と指摘している。
 「冒険小説論」  北上次郎、早川書房、一九九三年  「軍治冒険小説の行方」(三七二~七ページ)において『少年倶楽部』の峯太郎の作品について論じている。『敵中』『日東』『亜細亜』『大東』などと本郷義昭について語られるが「ストーリーの単調さは他の作品にも共通していて、山中峯太郎の特徴ともいえるのである。にもかかわらず、なぜ本郷義昭はこの時代のヒーローになり得たのか。」(三七五ページ)と書き、「山中峯太郎の作品にはそういう軍事科学の好奇心を満たしてくれる「知識」がふんだんにあったのである。」「この時期の学校における作文評価基準…単純に簡明直截な、そのかわり感情表現は類型的なのが賞められる」(三七六ページ)としている。一方で『万国』『第九の王冠』は「伝奇的趣向を凝らした作品で、この作家の意外な一面」といっている。しかし結論として「主観的には善意の連帯主義だったとしても、こののち山中峯太郎が結果的に日本のアジア侵略を代弁するイデオローグとなっていくのは、作家的資質より本郷義昭にこだわり続けたいという彼の強烈な思いのためで、かくて峯太郎のヒーローもまた鬱屈をかかえたまま昭和十年代を駆けていくことになる。」(三七七ページ)として、児童文学者らよりも本質的な部分を理解している。  
 「少年少女の昭和史第50回」  秋山正美、「花も嵐も」1993年8月号  副題は「読者百万-昭和10年の少年倶楽部」とあり、「太陽の凱歌」の単行本書影がある。
 「少年少女の昭和史第54回」  秋山正美、「花も嵐も」1993年12月号  副題は「アジアの友達と手をつないで」で、「亜細亜の曙」「アジアの兄弟」への言及と、「幼年倶楽部」昭和14年9月号の「アジアの兄弟」の林唯一の挿し絵がある。
 「近代戦争文学事典第二輯」  矢野貫一編、和泉書院、1993年  「鉄か肉か」(昭和十五年版、97ページ)の粗筋を紹介している。
 「日本児童文学大事典」  大阪国際児童文学館編、大日本図書、1993年  「山中峯太郎」の項は258-260ページに上田信道が執筆。小見出しをたてて「亜細亜の曙」「見えない飛行機」の粗筋を紹介している。
 「近代戦争文学事典第三輯」  矢野貫一編、和泉書院、1994年  「日本を予言す」(昭和十二年版、61ページ)を紹介している。
 「日本のイアン・フレミング「山中峯太郎」」  小松左京、「こちら関西」所収、文芸春秋社、1994年 p80-82  単に大阪生まれの有名人として紹介するのみ。
 「読者リクエストによるもう一度見たい、読みたい懐かしの『少年倶楽部』(3)」  「花も嵐も」1995年8月号 p92-98  「敵中横断三百里」「星の生徒」が挿絵一枚とともに言及されている。
 「古本術」  秋山正美、星雲社、1994年  古本マニア(特に大衆文学、児童文学)のための指南書。峯太郎関連では、
p111「南・山中の本は、主なものだけでも三十冊以上あるから、すべての値段を列記するわけにもいかないが、三十万円以上の珍しいものを挙げるとすれば、南の『魔境の怪人』(十四年、誠文堂新光社)と山中の『世界無敵弾』くらいで、その他の本は、かなりの美本でも十万円から二十万円どま、と見積もっていい。」
p131「落語家の柳家金語楼や軍事作家といわれた山中峯太郎が書いた軍隊生活をテーマにした本は、旧陸軍の暗い部分をえがいたりせず、むしろ、希望にあふれる愉快な兵隊さんたちの集団生活が描写されているのだが、この種のものも数万円クラスと見積もってよい。」
このような高価な古本は、マニアや投資目的ならともかく、私のような研究を目的とする場合にはかなわない。もっともバブル崩壊後、このような値段をつけている古書店は減ってきているようである。
 「近代戦争文学事典第四輯」  矢野貫一編、和泉書院、1995年  「満州事変大画譜」(昭和九年「日の出」付録、66ページ)を紹介している。峯太郎はここで解説をかいている。
「近代日本における陸軍将校の教育社会史的研究 : 立身出世と天皇制教育」
 廣田照幸(東京大学学位論文・博士)  
 「ケンペーくん」   ならやたかし、ラ・テール出版局、1995年1/31  「内閣調査室特別最高顧問もと陸軍大佐、本郷義昭」が登場し「本郷義昭とはかつての軍国少年の憧がれのヒーロー 007やインディ・ジョーンズより不死身のものすごい快男児であった」とかいてあるマンガ。  
 「樺島勝一が描いた「敵中横断三百里」十景」  「花も嵐も」1995年2月号 p75、84-88  樺島の挿絵十枚の復刻。
 「樺島勝一画帳」  「花も嵐も」1995年7月号 p6-9  加藤謙一の「フネノカバシマ」を収録し(「少年倶楽部時代」初出)、
「そのたくさんの中での傑作は『敵中横断三百里』の挿絵。これは作者の山中峯太郎氏の傑作でもあるが、これに添えられた挿絵の迫真緑というものは、どれだけこの物語の効果を助けているか。
敵中潜行の実話だから夜の場面が多い。画家にとって描きにくいところだが、それこそ『写真よりもリアル』に表現して、読者を画中に引きずりこまずにおかなかった。物語の進行が幾夜かにわたるうちに月の形がかわってくる。本文にはそこまで詳しく説明がないのに、月の満ち欠けを性格に迫って描いているこの辺の、芸の細かさというか良心的というか、さすがに見上げたものである。」
とある。
 「科学冒険小説の系譜(三)」  瀬名尭彦、「少年小説大系 月報26」所収、1995年7月  「少年小説における新兵器の行方」との副題で、「亜細亜の曙」のSF兵器を論じている。
 『評伝 山中峯太郎 夢いまだ成らず』  尾崎秀樹、中公文庫、1995年10月18日  1983年にでた単行本の文庫化。あとがきによれば『歴史と人物』昭和56年8月号から58年10月号まで連載したとのこと。  
 「『のらくろ』と山中峯太郎」  中野孝次、「こどもの本」1995年11月号  巻頭「心にのこる一冊」  
 「明治『空想小説』コレクション」  横田順弥、PHP研究所、1995年12月  149-154ページにかけて、 「亜細亜の曙」という章をたてて、「亜細亜の曙」のあらすじ紹介があり「まさに押川春浪作品系列の物語」「本郷義昭というキャラクターが魅力的」「日本SF史の上で、特筆されるべき作家」と評している。
 「近代戦争文学事典第五輯」  矢野貫一編、和泉書院、1996年  「敵中横断三百里」(昭和十一年「少年倶楽部」付録、113ページ)を紹介している。これは樺島勝一と梁川剛一の絵をおさめた物語画集である。その他に「野口せんしゃたい」(昭和十八年版、180ページ)。「敵中横断三百里」(昭和三二年版、221ページ)は小山書店新社よりの改稿版である。
 「少年少女の昭和史第79回、五大付録つき豪華版新年号の魅力」  秋山正美、「花も嵐も」1996年1月号  「迫る国難」の表紙写真あり。
 「科学冒険小説の系譜(五)」  瀬名尭彦、「少年小説大系 月報28」所収、1996年2月  「少年小説における新兵器の行方」との副題で、「見えない飛行機」を論じている。
 「暗殺列車 山本五十六大将抹殺指令」  辻真先、光文社、1996年9月25日  本郷義昭がキャラクターの一人として登場する。  
 「科学冒険時代」  会津信吾、「少年小説大系 (別巻 5)」所収 佐藤 忠男 (著), 西 英生 (編さん) 、三一書房 、 1997年1月  初出「SFマガジン」1980年12月号~82年8月号からの抜粋で、「山中峯太郎」との小見出しの元に主に本郷義昭作品についてふれられている。
 「桃蔭百年 大阪府立天王寺高等学校創立100周年記念誌 1896-1996」    内容未確認
 「『少年倶楽部』『少女倶楽部』『幼年倶楽部』名作挿絵集 思い出の名場面」  「花も嵐も」1997年1月号  「黒星博士」(林唯一)の挿絵あり。
 「『少年倶楽部』『少女倶楽部』『幼年倶楽部』新連載全リスト(約千点)と名作挿絵選」  秋山正美、「花も嵐も」1997年1月号 p48-67  挿絵は「太陽の凱歌」が掲載されている。
 『日本の大衆文学』  セシル・サカイ、朝比奈弘治訳、平凡社、1997年2月19日  フランス人学者による日本の大衆文学の歴史の研究書。峯太郎については、
「少年向けの戦争冒険小説でよく知られている山中峯太郎(一八八五―一九六六)も、この欄(平山註:『中央公論』の実話を掲載する「説苑」という欄のこと)から出発した作家である。さまざまな記事に見られる彼の実録物への好みは、同時代の人気女優たちの私生活に入り込んだ『女優情史』(一九二九)で頂点に達するが、この連載の人気は同時に、それを掲載した女性雑誌『主婦之友』の人気をも高めた。」(p.119-20)。
 「『海外進出文学』論・序説」  池田浩士、インパクト出版会、1997年3月  P197-200、218,219に峯太郎の長編小説「民族」について言及有。「アイヌの滅亡を小説化しながら日本国家の現在の侵略の道を合理化した」と述べているが、著者池田は「民族」の最後の数章分でしかない、ヰボシが現代文明に接して絶望し、自殺する部分のみを延々と紹介してそのほとんどを占めるシネツクルの抵抗とそれを抑圧する狡猾な日本人の姿を紹介しないのは、意図的ではないかと疑わざるを得ない。私からしてみれば、よくここまで日本人を悪者の侵略者に描き出した小説が「偕行社記事」(陸軍将校親睦団体の機関誌)に連載され、単行本になって三十版以上も版をかさねたものだと思う。  
 「ナショナリズムと児童文学」  長谷川潮、「児童文学の思想史社会史(研究・日本の児童文学2)」所収、日本児童文学学会編、東京書籍、1997年4/21  押川春浪からの大衆児童文学におけるナショナリズムの研究で、「敵中横断三百里」「亜細亜の曙」「大東の鉄人」「見えない飛行機」「黒星博士」への言及がある。
 「『敵中横断三百里と私』  野口勇、「花も嵐も」1997年5月号  読者投稿欄における絵物語版「敵中横断三百里」の思い出。
 「『少年倶楽部』の小説における物語性の功罪-山中峯太郎の少年小説を軸として-」  続橋利雄、「児童文芸」1997年5月号  「山中峯太郎の軍事冒険小説が、子どもの心をとらえ、熱狂的に愛読されたのは、めっぽう面白いからにほかならない」といい、『亜細亜の曙』を題材として論じ、その要素として「作者と読者と主人公とが一体化したことが熱狂的な人気現象をもたらした」「優劣関係の逆転とその反復性」「描写の迫真性」「文体による効果」であると分析している。第三の迫真性については、
「村松定孝が戦後、山中峯太郎と会った際、「あれを書いていた当時、しばしば参謀本部から呼び出しを受けました。もちろん、あの頃は軍籍を退いておりましたが、私が想像で書く新兵器と陸軍が秘密で計画している兵器の設計図が一致しているので、秘密がもれたに相違ないと疑われたのです」と語ったことを記している」
とかいている。(この村松の文章を御存じの方は御教授下さい)
 「明治時代は謎だらけ!! 漱石の弟子を希望した山中峯太郎?」
「明治時代は謎だらけ!! 漱石の弟子を希望した山中峯太郎?-その2」
 横田順弥、「日本古書通信」」第814号、1997年5月号および第815号、1997年6月号  「人生突進記」および同内容の「爆進三人男」は峯太郎が作家デビューする前後を描いた自伝的ユーモア小説だが、その中で夏目漱石を思わせる大作家に紹介してもらうシーンがある。さらにそこに登場する「厚井桂一」はのちの淡路丸偽電事件に関係した薄井秀一であると論証する。
 『思い出の少年倶楽部時代』  尾崎秀樹、講談社、1997年6月2日  p82「『敵中横断三百里』山中峯太郎 騎兵斥候に血わかす」、p90「『亜細亜の曙』山中峯太郎 祖国を守る剣侠児 本郷義昭」、p154「『見えない飛行機』山中峯太郎 正男少年と愛犬タケルの活躍」が掲載されている。
これらの解題はサンケイ新聞に週一回、一年間連載したものに加筆したと、あとがきでかかれている。
また元編集者の座談会「「少年倶楽部」の思い出」p365~368でも峯太郎の思い出話が語られている。
 
 「明治時代は謎だらけ!! 押川春浪は空を飛んだか?」  横田順弥、「日本古書通信」第816号、1997年7月号  「人生突進記」で峯太郎が飛行機に乗るシーン、山中未成名義の「初乗飛行機感想記」への言及がある。
 「少年少女の昭和史第91回、ラッパ式ラジオから箱型ラジオへ」  秋山正美、「花も嵐も」1997年7月号  「武侠少年の七日間」(挿絵松野一夫、「ラジオ子供のテキスト」)が四ページ写真ででている。
 「明治時代は謎だらけ!! 海にも出てきた薄井秀一」  横田順弥、「日本古書通信」第817号、1997年8月号  前述の薄井秀一についてのさらなる論考で、淡路丸事件にも言及している。
 「納涼「怪奇物語」大特集」  「花も嵐も」1997年8月号 p60-77  「世界無敵弾」の挿絵(伊勢良夫)が掲載されている。
 「捏造された日本史」  黄文雄、日本文芸社、平成九年9/25  p109-113に「24 支那革命に青春を賭けた熱血小説家・山中峯太郎」という一章をもうけて、第二、第三革命に峯太郎が参加したことに言及している。晩年の写真あり。
 「明治時代は謎だらけ!! もうひとつの『敵中横断三百里』」
「明治時代は謎だらけ!! もうひとつの『敵中横断三百里』(2)」
 横田順弥、「日本古書通信」第821号、1997年12月号および第822号、1998年1月号  「敵中横断三百里」と小西可東「騎兵斥候 露軍横断記」、原田政右衛門「君国の為め」の内容が酷似しているということを指摘している。小西作品は「少年倶楽部」の編集者も言及しているので、峯太郎は参考にしたとおもわれるが、豊吉軍曹の話はどこに生かされたのだろうかと疑問を呈している。
 「満州遥かなり 1、2」  秋月達郎 学習研究社、1998年  石原莞爾を主人公にした架空戦記小説.。峯太郎は満州独立計画を企てる石原の軍師として1巻p164から登場する。峯太郎の略歴が189~194ページに掲載されている。残念ながらこの作品は二巻で未完に終わったようである。  
 「誕生!『手塚治虫』  霜月たかなか編 朝日ソノラマ、1998年7月  第七章「海野十三と戦前~戦中の科学小説」(會津信吾)に、峯太郎について言及あり。  
 『残影 敵中横断三百里 建川斥候長の生涯』  中島欣也、新潟日報事業社、1998年9月16日  建川美次の伝記。
 「児童戦争読み物の近代」  長谷川潮、日本児童文学史叢書21,久山社、一九九九年  筆者は戦争を題材にした児童文学の研究をしており、「日本の戦争児童文学 戦前・戦中・戦後」という著書もある。この本では峯太郎のみを扱った章はないが、言及として「…押川春浪や昭和初期の山中峯太郎らの思想が本質的な意味で侵略的であり、かれらの文学はそういう思想を表明する一つの手段だった」(22ページ)、
「のちに山中峯太郎は、『敵中横断三百里』(大日本雄弁会講談社、一九三二年)のまえがきにおいて、「武侠」を自分の理念として提示した。…(以下『敵中』冒頭の引用)…春浪も峯太郎も、武力が平和のためのものだと強調することにおいて、また、アジアの立場において侵略者としての欧米列強を告発することにおいて共通している。それでは、春浪の言う「自由、独立、人権」としての武侠を峯太郎はストレートに継承しているのだろうか。そうではないのである。」(四九~五〇ページ)、「つまり日本は「黄色人種の覇者」なのだから、朝鮮や中国を支配しても当然ということであり、それが春浪や峯太郎の「武侠」だった。日本を盟主とする「大東亜共栄圏」という発想を、早くもここに見ることができる」(五二ページ)。
まったく長谷川は峯太郎の思想の変遷を理解していないことが見て取れる。
 「シャーロック・ホームズ秘宝館」  北原尚彦、青弓社、1999年3/30  p220「第30章大傑作翻案、山中ホームズ」とp232「第31章台湾でも山中ホームズが!」で峯太郎のシャーロック・ホームズの翻案を絶賛し、その本来の並び方も提案している。また台湾での中国語訳についても言及している。  
 「ユダヤ陰謀説の正体」  松浦寛、ちくま新書、1999年11/20  ユダヤ陰謀説および反ユダヤ思想についての糾弾書。「第3章ユダヤ人秘密結社「シオン同盟」」で、峯太郎の「大東の鉄人」に登場する「シオン同盟」をとりあげて「「ユダヤ人という表象が、対外緊張と経済危機のたかまりのなかでナルシスティックな自己画定のための他者をまとめあげる基体として機能している」と説く。しかしこの本自体がその居丈高さとエキセントリックさでトンデモ本となっているのに著者は気がついていない。
 『日本陸軍と中国』  戸部良一、講談社、1999年12月10日  陸軍のいわゆる「支那通」に関する研究本で、p53に峯太郎に関して「山中の行動は、隣国の「「革命」に対して支那通軍人が抱いたロマンティシズムを示す典型的な例と言えよう」と評している。